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河合塾

新学習指導要領
~中学校改訂のポイント、今後必要とされる学力とは~

第8回:
新しい学習指導要領のポイントを
わかりやすく解説!
〜社会科編〜

河合塾 社会科講師

志村 裕之 先生

河合塾で小・中学生対象に長年教鞭をとる。高校受験に向けた学習指導として、確かな知識と、背景の理解を通じ、自ら発見して理解する授業を目指している。「社会は暗記科目ではなく、知識を元に考える科目」を体現する。

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小学校での社会科の学び

 小学校に続き中学校の社会科では何を学ぶのでしょうか、そしてその学びにはどのような違いがあるのでしょうか。まず小学校での社会科の学びを振り返ってみましょう。自分の住んでいる場所やその周辺の学習からはじまり、小学校の校区、そして市・町・村,都道府県へと学びの範囲を広げていきます。その学びでは、教科書などから知識を得ることはもちろんですが、実際に出かけて身近な地域を調べることも行われます。例えばお祭りなどを調べることで、自分と、むかしの人や文化とのつながりを確認します。そして、5年生では日本全体の地理分野を深く学び、6年生では日本国憲法や国のしくみなどの公民分野と、歴史分野の日本史を学びます。また、貿易や文化のようすなどを通じて日本と関わりのある国についてもみていきます。こうした学びを通じて、私たちは自分という存在が、身近な人や社会との結びつきだけでなく、むかしの人々や、外国も含めたさまざまな地域との結びつきによって支えられているということを理解してきました。また、さまざまなことがらについて調べ、まとめて考え、発表する力をつけることも目指してきました。

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中学校での社会科の学び

 中学校の社会科で学ぶ3分野とは、1・2年生で学ぶ地理分野と、1~3年生で学ぶ歴史分野、3年生で学ぶ公民分野です。一般的に、地理分野は1年生で世界地理を、2年生で日本地理を学び、歴史分野は日本史を中心に、中国やヨーロッパなど世界史における重要な内容についても学びます。公民分野は日本国憲法や国のしくみなどの政治と、家計や価格のしくみなどの経済を中心に学習します。中学校での学びでは、習得しないといけない知識の量や単元ごとの教科書の内容量が、小学校より大きく増加し、理解することが難しくなっています。とくに、中学校で学ぶ専門的な用語や概念を理解するために、用語や概念と具体的なことがらを、自ら結び付けないといけないということが,小学校と大きく異なる点であるといえるでしょう。それはどういうことでしょうか、例えば小学校では、聖武天皇など歴史上の人物を中心に学び、人物を手がかりに政治面や文化面などの内容についてみていきます。そして、東大寺の大仏造りがどのような社会背景のもとすすめられ、人々の負担はどのようなものであったかなど、具体的なことがらからを教科書ではみていき、各時代の特色を理解していきます。それに対して中学校では、その単元の学習のために示された社会・政治の状況や地理的条件、産業のようすなどについて、自らも考え、必要なものを判断して結び付け、総合的に理解することの必要性が高まっているのです。つまり中学校では主体的な学びがより必要となっています。

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社会科の学びに求められている力

 新学習指導要領の三つの柱は、①知識及び技能の習得②思考力・判断力・表現力等の育成③学びに向かう力・人間性等の涵養です。そのうちの「知識」と「技能」についてみていきましょう。中学校の社会科の学習では、社会科用語を正しく覚えるということが小学校の時よりもさらに重視されます。すなわち「知識」を確かなものにするということがまず大切なのです。そして、社会科用語の「知識」と、資料など教科書に提示されたさまざまな情報について、必要なものを選択し、それらを分析し、理解を深めるという「技能」が重要になっています。もちろんその「技能」には、「思考力」や「判断力」が含まれます。そのためでしょうか、近年の入試では、教科書や資料集に示されている見知った資料や図などからでなく、大部分の受験生にとって初めてみる資料や図から出題するものが、多くみられるようになりました。そうした資料から解答に必要なデータを読みとって、総合的に分析し、判断して解答を導き出します。これは大学入試の大学入試共通テストでもみられる傾向です。
 さらに今後、重視されるのは、さまざまなことがらを多角的に、多方面からみていく力です。世界にはさまざまな文化や宗教、価値観などをもち、さまざまな立場にある人々がいます。日本でも各地域にはさまざまな文化や価値観をもつ人がいますし、独自の文化やことばなどをもつ先住民も存在します。同じできごとであっても、価値観や立場が異なれば、ものの見方は異なります。自分たちとは異なる文化や価値観をもつ人々に対する理解や、異なる立場の人々のものの見方や考え方を推察するという力を養うことが重視されてきており,今後ますます重要となると思われます。たとえば2021年度の愛知県公立高校入試問題(社会科A日程入試)の日本の歴史について問う大設問2(2)の問題をみてみましょう。
 資料Ⅱ中の図は1925年に成立した普通選挙制度のポスターです。資料Ⅲは1960年の日米新安全保障条約に反対する人々が、国会周辺に集まるようすを示している写真です。普通選挙制度と日米新安全保障条約に、それぞれ賛成した人と反対した人が主張したであろう内容として適切なものを推測し、それを実際に当時の人々が示した意見や考え方であるW・X・Y・Zから選び、答えるというものです。これらの選択肢の内容は、いずれも大部分の受験生がはじめてみるものです。この問題は、普通選挙制度と日米新安全保障条約が成立する前後の歴史的状況や時代背景と、それらに賛成した人と反対した人の主張を総合的に考察し、適切に判断していくことで正答を導き出さないといけません。
 このように、大学入試共通テストなどの大学入試や高校入試では、図や表などの資料から出題する問題が増えています。そうした問題を解くためには、それら多くの資料のなかから、適切なものを選択し、そのうえで考察するという力が求められています。そうした力をつけるためには主体的な学びがとても重要です。新学習指導要領には、アクティブ・ラーニングに代表される「主体的・対話的で深い学び」を重視することも示されています。
 「主体的・対話的で深い学び」には、他者に対するまなざしやその理解が不可欠です。そして、多角的にさまざまなことがらをとらえていくということが重要です。自分以外の人のさまざまな立場や価値観について考えていくという学びが、他者への理解を深めていきます。例えば世界の各地でおこっている内戦や紛争についてみてみましょう。内戦や紛争の状況だけでなく、内戦や紛争がおこったところの地理的状況や歴史的状況などもしっかり調べてみましょう。その場合に、新聞や書籍など可能な限り多くのものから資料を探して、争っているそれぞれがどのような立場からどのような主張をし、どのような点で理解しあうことができず対立しているのかということなど、多角的に考えていきましょう。視点や立場を変えて考察することは、自分ひとりの作業であっても対話的な作業にほかなりません。これは歴史や地理の学習でも同様に行うことができます。そして、考察したことはかならず文章にまとめてみましょう。文章にしてみることでそのときの自分の考えを客観的に確認することができます。それを異なる視点から検証してみるのです。こうした作業を通じて、社会科で求められ、入試でも必要とされるようになった主体的・対話的な学びの力を身につけていくことができます。日頃のニュースに対しても多角的な考察を取り入れてみてください。

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