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中日新聞ほっとWeb HOME > 教えて!河合塾 > 新学習指導要領の中学校改訂のポイントとは?
河合塾

新学習指導要領
~中学校改訂のポイント、今後必要とされる学力とは~

 2020年度に小学校で「新学習指導要領」が全面実施されたのに引き続き、2021年度には中学校でも「新学習指導要領」が全面実施されます。
 前回の学習指導要領の改訂(平成20年告示の改訂)では、「ゆとり教育」からの脱却に舵を切り、確かな学力、豊かな人間性、健やかな体の調和を重視する「生きる力」の育成が基本方針として掲げられました。そして、知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスが重視され、道徳教育や体育などの充実が図られました。
高校入試や大学入試で「思考力・判断力・表現力等」を重視した出題がなされるようになったのも、記憶に遠くないと思います。
 今回の学習指導要領の改訂は、「ゆとり教育」からの脱却のような大きな方針転換はなく、概ね前回の改訂の流れを受け継ぐものだと言えます。その中で「情報活用能力」の育成がより強調されるようになりました。なお、中学校に関しては、各教科等の種類や授業時間等の規定については、改正は行われていません。
第7回:
新しい学習指導要領のポイントを
わかりやすく解説!

河合塾 国語科講師

後藤 禎典 先生

河合塾小学・中学グリーンコース国語科教科主任。授業だけではなく講演会やイベントも数多く担当している。また、河合塾の各種の教材の執筆も行い、国語の魅力や学習法を生徒に伝え続けている。

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改訂の理由と時代背景

 今回の学習指導要領改訂の理由として、文部科学省は以下のような理由を挙げています。
  • ・生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等によって、社会構造や雇用環境の変化が予測困難な時代となっていること。
  • ・このような時代にあって、学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められていること。
 文部科学省発行の「中学学習指導要領(平成29年度告示)解説」を読むと、「予測困難な時代」という言葉が繰り返し使われています。
 平成から令和へと時代が移り変わる中で、情報技術はますます進展し、スマートフォンやパソコンは生活の中で日常的に使われるようになりました。そうした情報機器の使いやすさが向上するにつれて、子供たちが情報を活用したり発信したりする機会も増えています。しかし、同時にそれは子供たちがインターネット上での誹謗中傷やいじめ、違法・有害情報と遭遇する可能性も増えたことを意味します。
 また、AI(人工知能)の進化は、人間の知能を追い越す「シンギュラリティ」(技術的特異点)の到来を招くとされ、それによって人間の行っていた仕事の多くが奪われることで、雇用にも大きな変化が生まれると言われています。
 さらには先の見えないコロナ禍が「予測困難な時代」に追い打ちをかけ、子供たちの学校生活にも影を落としています。子供たちは様々な変化に向き合わざるをえない状況に置かれ、積極的な課題解決や新たな価値観の創造を否応なく求められています。
 今回の学習指導要領の改訂は、告示された平成29年にも「予測」できなかった、大きな「困難」の中で実施されることになり、いきなり改訂の真価が問われることとなりました。

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改訂のポイント

 今回の改訂の大きなポイントを挙げるとすると、「『生きる力』の具体化」と「情報活用能力」です。
1.「生きる力」の具体化
 予測困難な社会の変化に主体的に関わっていくために必要な力として、文部科学省は、学校教育が長年その育成を目指してきた「生きる力」を挙げています。
 「生きる力」については、平成8年の中央教育審議会の答申で、「基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力である」と定義されています。
 今回の改訂では、「生きる力」をより具体化すべきだという中央教育審議会の提言に基づいて、全ての教科等の目標及び内容を、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱で再整理しています。この三つの柱は、子供たちが育成すべき「資質・能力」の三つの柱でもあり、「何を学ぶか」だけでなく、「何ができるようになるか」を重視したものです。
【知識及び技能】
 「資質・能力」の育成を支えるのが、「何を理解しているか、何ができるか」に関わる「知識及び技能」の質や量です。今回の改訂では、知識の理解の質を高めることが重視されており、技能とともにその習得には「主体的・対話的で深い学び」が必要とされています。興味や関心を持ったことを自己と関連付けながら、子供同士の協働、先生や地域の人との対話を通して、より深く理解したり、考えを形成したりする学びが必要とされているわけです。こうした「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、文部科学省は、アクティブ・ラーニングの視点に立った授業の改善を求めています。
 また、「知識及び技能」は、確かな学力のみならず「生きる力」全体を支えるものであることから、今回の改訂では、各教科等において育成することを目指す「知識及び技能」とは何であるかが、発達の段階に応じて学習指導要領に明示されることになりました。その具体的な中身については、各教科の現場レポートの回で触れていきたいと思います。
【思考力、判断力、表現力等】
 子供たちが「理解していることやできることをどう使うか」に関わるのが、「思考力、判断力、表現力等」です。既得の知識や技能をどう活用し、新たな知識や技能をどう獲得するかを考える力であり、課題を解決するために必要な力です。この力を育成することで、未知の状況にも対応できるようになります。
【学びに向かう力、人間性等】
 「どのように社会や世界と関わり、よりよい人生を送るか」に関わるのが、「学びに向かう力、人間性等」で、他の二つの柱をどのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素と位置付けられています。「学びに向かう力」には、主体的に学習に取り組む態度が含まれます。「人間性等」には、協働する力、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさ、思いやりなどが含まれます。
 こうした「生きる力」の育成には、教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成も必要です。具体的には、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の、教科の枠を越えたすべての学習の基盤となる資質・能力の育成が求められます。
2.情報活用能力
 世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力が「情報活用能力」です。
 具体的には、子供たちは学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり、情報を整理・比較したり、得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり、必要に応じて保存・共有したりすることが求められます。また、このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や、プログラミング的思考、情報モラル、情報セキュリティ、統計等に関する資質・能力の涵養も求められます。
 こうした「情報活用能力」は、各教科等の学びを支える基盤と位置付けられ、各教科の指導事項にも、「情報の扱い方」などの項目が盛り込まれています。