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河合塾

新しい学習指導要領で教育は
どのように変わるのか。
長年、子どもたちの学びに携わっている
河合塾の講師陣から、
小学生の「学びの今」について、
教科ごとに現場の声をお伝えします。

第6回:
新しい学習指導要領のポイントを
わかりやすく解説!
〜算数編〜

河合塾 算数・数学科講師

神谷 建 先生

河合塾にて小学算数・中学数学講座を長年担当。子どもたちが自ら考えて判断する授業を展開し、信頼を得ている。2020年度の小学校教科書改訂を受けた河合塾の小学算数の教材改訂にも尽力するなど小学算数の最前線で活躍している。
2020年度から小学校の学習指導要領の改訂が全面実施されるにあたり、
河合塾 算数・数学科 神谷 建先生が解説します。

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知識だけではだめだけど。

 新学習指導要領のもとで、算数教育がどのように変化していくのか、ということですが、その前に
「変化しないこと」のほうが圧倒的に多い
のだ、ということを強調しておきたいと思います。
 「漢字を覚えない国語学習」や「英単語を覚えない英語学習」はあり得ません。同じように、計算や公式といった基本的な知識を確実に定着させることが、算数の学習を進めるうえでいちばんの土台になることは今後とも変わることはないでしょう。
 ところが近年、「これからは、単純作業はコンピュータの仕事。人間はもっと他のことに力を入れるべきである」という論調が目立ち始めているように思います。
 先日、あるテレビ番組で「スマートフォンのカメラで計算問題を撮影すると、答えを出してくれるアプリ」が紹介されていました。それも、「3+5=?」のような問題ではなく、中学校で学習する連立方程式です。塾で生徒にその話をすると、「因数分解もやってくれるアプリがありますよ」と教えてくれました。
 さて、番組はこのあと「これまでは算数というと答えを速く正確に出すことが重要視されてきましたが、これからは『思考力・判断力・表現力』『日常生活への応用』が求められるようになります」というナレーションがあり、いろいろな小学校での授業の工夫が紹介されました。とても興味深く視聴したのですが、同時にこれは視聴者の誤解を招くのではないか、 という危機感を持ちました。
 『思考力・判断力・表現力』がより求められるのは間違いありません。しかし、算数という教科の中で必要となる能力は、算数の知識、論理に基づいたものでなければなりません。算数で身につけた知識を応用して思考し、判断し、表現することが求められるのです。
 新学習指導要領においても、計算をはじめとする基本的な技能・知識は決して軽んじられてはいません。新学習指導要領では、「目標」として 「数量や図形などについての基礎的・基本的な概念や性質を理解するとともに、日常の事象を数理的に処理する技能を身につけるようにする」と明記されています。「小数や分数の表す意味は何か」「なぜそのように計算するのか」などをきちんと捉え、技能として定着させる、いわば「算数の文法」を身につけてはじめて、それを使いこなすこと、実践的な問題解決の場面で活かすことができるようになるのです。

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「私が学ぶ」から「私たちが学ぶ」へ。

 第1回でも説明されていますが、新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が重視されています。ここでは、 その中の「対話的な学び」について考えてみます。
  「対話的な学び」と言われてまず頭に浮かぶのは、ある問題に対して、子どもたちがペアやグループを作って解決策を話し合う、といった場面でしょう。ここでの目標は、問題の答えを導き出すことだけではありません。「わかる子は、わからない子に、どのような説明をしてあげればわかるかを考えながら教えてあげる」「わからない子は、どこがわからないのかを素直に話して教えてもらう」といった、学び合う姿勢を養うことが重要なのです。また、わかった子も「本当に自分の考え方でしか解けないのだろうか?」「もっと簡単に解いている子の説明を聞きたい」というように、よりよい考えに高める経験を重ねることが大切になってきます。
 また、実はこの「対話的な学び」は、プログラミング教育(プログラミング的思考について、より詳しくはぜひ第3回「理科」をご覧ください)とも深く関係しています。もちろん、実際にコンピュータと言葉を交わして……という意味(SF的な?)ではありません。指導要領の一部を引用します。

 プログラミングを体験しながら論理的思考力を身につけるための活動を行う場合には、たとえば正多角形の作図を行う学習に関連して、 正確な繰り返し作業を行う必要があり、更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。(一部省略、強調は引用者による)

 「更に一部を変える」というのは、「プログラムを書き直す」、つまりコンピュータに新しい指示を出す、ということです。コンピュータは指示されたことはとても素早く正確に行ってくれますが、その反面、指示されていないことは絶対に行ってくれません。つまり、思った通りにプログラムが動かないときは、必ず指示を出した自分に間違いがあるわけです。それをどのように修正すればよいのかを試行錯誤していくわけですが、 この過程は先に述べた「問題がわからない子に、どのように説明してあげれば伝わるのかを考える」という状況と似ていませんか?
 対話的な学びとは、自分さえわかればいいという姿勢から脱却して、「自分たち」が協力しあって学び、成長していくということです。人間がひとりで生きていけない以上、生涯にわたって求められ続ける力である「協働性」が義務教育の現場で求められるのは、自然なことといえるでしょう。
 また、例えば自分ひとりで算数の問題に取り組む際にも、「答えは出たけれど、本当にこの解き方が最善なのか」とか、「この式で、読み手には正しく伝わるだろうか」 というように、客観的な視点を取り入れる意識を持つことで、「主体的な学び」においてもより学習効果を高められると思います。

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情報社会にかかわる算数。

 もう1つ、今回の新学習指導要領における大きなポイントは、小学1年から中学3年までを横断する形で「データの活用」という学習領域が設けられた点です。
 これまでも、資料をグラフに表し、そこからわかることは何かを考えるという学習はありました。しかし、今回の改訂では大きく変わった点があります。これも指導要領を引用します。5年生の内容です。

 目的に応じてデータを集めて分類整理し、データの特徴や傾向に着目し、問題を解決するために適切なグラフを選択して判断し、その結論について多面的にとらえ考察すること。

 つまり、誰かがまとめてくれたグラフを読み取ることにとどまらず、まず調べたいことがらについて「どのような資料が必要か」「どのような資料を、どのように集めればよいのか」を考え、さらに「結果を分かりやすくまとめるには、どのグラフを用いるのが適切か」「結果から読み取れることは何か」「本当にその読み取りは正しいのか」といった検討を加えていく……といったことを学習するようになるのです。
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▲箱ひげ図(中学2年で学習)を利用した、スマートフォンの通信速度表示(イメージ)。2015年12月より、総務省のガイドラインによって、このような図表を用いて計測結果を公表することが通信業者に推奨されている。
 このような学習内容が新たに設けられた背景には、社会生活のさまざまな場面において、データを正しく読み取り問題解決、意志決定をすることが求められているという現状があります。新聞やテレビで目にするさまざまなアンケート調査や、広告、電化製品のパンフレットなど、見た目が「わかりやすい」グラフはたくさん溢れていますが、その中には「調査の対象や方法が明記されていない」「グラフを立体的に見せて印象を都合よく変えている」など、情報を正確に表しているとは言えないものも多いのです。
 まさに、情報があふれる現代において要求されるメディアリテラシー(メディアから得た情報の真偽を見極め、情報を取捨選択する能力)を育てる、日常生活に密着した学習内容の変化だと言えるでしょう。「ただ1つの明確な解答」が存在しない状況で、どのように自分なりに筋道立てて考え、判断して行動するのか。その考え方のヒントが算数・数学の義務教育課程に組み込まれたことは、非常に大きな意味を持っていると言えます。

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「学び合える」小学生になるために。

 まとめると、これからの算数学習に求められるのは
「正しい知識に基づき、論理的に説明をする能力」
「他の人の意見や考えをきちんと検討し、自分の考えを修正していく能力」
ということになるのでしょう。
 もちろん、このような能力は一朝一夕に身につくものではありません。まずはお子様が、多少言葉足らずでも、表現が稚拙でも、 考えたことを自分なりに表現してみる機会を作ってあげてほしいなと思います(第4回「国語」の4もご参照ください。) 「きちんと話を聞いてもらえる」という経験が、「もっとよく伝わるように話したい」「人の話にもしっかりと耳を傾けよう」と思えるお子様を育てていくことになることと信じています。