11月上旬、トヨタ自動車が、米シリコンバレーに人工知能(AI)を研究・開発する新会社を設立すると発表した。自動運転技術の実用化を急ぐのが目的である。
自動運転は文字通り、自動車が勝手に走って目的地へ運んでくれるという技術だが、AIと言っても、コンピューターが主体的に考えて運転するわけではない(そういうのは「強いAI」と区別される)。人間の組んだアルゴリズム(計算手順)に基づき、外界から取り込んだ情報を超高速で瞬時に解析し、どう動くかを決めるのである。
アルゴリズムはわれわれの生活にすでに深く入り込んでいる。
<1>クリストファー・スタイナー『アルゴリズムが世界を支配する』(永峯涼訳、KADOKAWA・1,728円)は、アルゴリズムとは何かを起源から平易に説き起こし、象徴的なウォール街のトレードをはじめとして、映画脚本の評価、楽曲のヒット率判定、交響曲やオペラの作曲など、アルゴリズムが人間を凌駕(りょうが)しつつある領域をリポートする。
シリコンバレー研究所発表の少し前、名古屋大学の研究する自動運転カーがテスト走行中に軽い事故を起こした。原因は、乗車員が余計な操作をしたことだった。
知人が「邪魔な人間に対するAIの叛乱(はんらん)だ」とツイートしていて面白かったのだが、AIが人類を超えるという「シンギュラリティ(技術的特異点)」が、あながち絵空事でなくなってきたことも、最近のAIブームの背景にはある。可能性を一気に広げたのは、「ディープラーニング」と呼ばれるAIが自ら学び成長する技術だ。「強いAI」への道筋が開けたのである。
<2>松尾豊『人工知能は人間を超えるか』(KADOKAWA・1,512円)は、ディープラーニングを中心に、AI研究の歴史と、現状可能なこと可能でないこと、AIと人類の未来を説く。印象的なのは、ディープラーニングを従来の限界を突破する革新的大発明と高く評価しながらも、シンギュラリティは「笑い話にすぎない」と一蹴していることだ。第一線の研究者による、地に足の着いた概説書である。
シンギュラリティがテーマのSFは、AIと人類の対決という構図に陥りがちだが、<3>ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳、早川書房・2,052円)はポスト・ヒューマンにおける情緒を描いて新鮮。又吉直樹が推薦したおかげで翻訳SFとしては異例のベストセラーとなったが、作者はもともと世界的に評価と期待がものすごく高いSF界の新鋭である。本書は日本オリジナル短編集で、訳者が精選した十五編を収める。