世田谷文学館で、「水上勉のハローワーク 働くことと生きること」という展示を見ました(12月21日まで)。水上勉は、10歳の時、京都の寺に修行僧として入ったことを皮切りに、実にたくさんの職業を経験した人なのです。
水上が寺に入ったのは、自らの意志と言うよりは、口減らしのため。覚悟の“出家”ではなく、仕方なしに若狭の家を出たのです。
その哀切が描かれたのが、「雁(がん)の寺」(<1>『雁の寺・越前竹人形』=新潮文庫・594円=に収録)。この作品で水上は直木賞を受賞しました。
親元を離れなくてはならなかった少年は、京都の寺で心の中にどろりとしたものを溜(た)め込んでいきます。そして最後に起こる、ある事件。家を離れたことが作者にとってどれほど大きな意味を持っていたかを示す一冊です。
水上が若い時代、地方の次・三男は、長男しか田畑を継ぐことができないため、家を出ざるを得ませんでした。対して今の若者は、涙や熱気を伴うことなく、“何気に”上京しているのだそう。
<2>難波功士『人はなぜ<上京>するのか』(日経プレミアシリーズ・918円)は、?(おう)外・漱石の時代から現代に至るまで、