3冊の本棚
今回は栗原さん
栗原 裕一郎(くりはら・ゆういちろう) 
栗原さん
評論家。黒部ダムを抜けて金沢21世紀美術館へ。「タレルの部屋」が素晴らしかったです。
文芸評論の深い読み

 文芸評論家の田中弥生さんが亡くなったので、彼女の本とともに文芸評論を三冊紹介します。
  <1>『スリリングな女たち』(講談社)。品切れ中だが、電子版で購入可できる。田中の唯一の著作となった本書は、比較的若手の女性作家を論じた評論集である。取り上げられているのは、鹿島田真希、本谷有希子、綿矢りさ、金原ひとみ、島本理生、柴崎友香の6名。現代社会に生きることの違和感を表現している作家が選ばれている。女性に限定したのはなぜか。「性的に相手を受け入れ、時に産むことさえある人間は、そうでない人間よりも生物としての違和感をはっきり感じるから」だ。若手に女性作家の活躍が目立つのもそのためだとされる。
男女問わず総じて大人(おとな)しい昨今の文芸評論家の中で、田中の個性は際だっていた。深い読み込みから提示される独自の、だが説得力のある読解。信念に基づく厳しい作品評価。評論や書評、文芸時評などに加え、親しかったある作家のツイートによると、純文学新人賞すべての下読みに携わっていたそうだ。今後の文学を牽引(けんいん)する一人だったはずだが、癌(がん)に倒れた。享年44歳。ご冥福をお祈りします。

 <2>都甲幸治ほか『世界の8大文学賞』(立東舎・1,728円)は、日本でもよく知られる文学賞について解説し、代表的受賞作を翻訳者や作家、書評家らが読書会式に紹介する。

ノーベル賞は道徳的で高齢者優遇とか、ブッカー賞は受賞作に外れなしとか、大変にざっくりした説明で明るくない人にも優しい。読書会も軽妙で楽しい。登場する14名の半数に現在活躍中の女性陣が起用されているところもいい。

 最後に毛色の変わった文芸評論を。<3>さやわか『文学の読み方』(星海社新書・950円)。著者はこれまで、ゲームやアニメなどサブカルチャーの分野で著述を重ねてきており、文学に手を出すのは初めてとなる。だが、直球のタイトルがよく示すように穿(うが)った内容ではなく、一読すれば文学への造詣も深いことがすぐにわかるはずだ。彼はあとがきでこう述べている。 「文学について考えているからこそ、他のことを書く人だっているだろう。いや、文学のことを考えているからこそ、別のことを考えるのが正しいのではないか」
同じく雑多にやっている身として激しく同意である。みんなねぇ、一ジャンルに閉じこもりすぎなんですよ。一言でいえば「フィクションとは何か」を追究したものだ。近現代文学の基礎とされる日本流リアリズムを根底から問い直したといってもいい。リアリズムは「現実」や「内面」を描くというが、どちらも「錯覚」である、文章で現実とか人の心が書けるわけないじゃん、と説く。では坪内逍遙以来連綿と続いてきた「文学」とは何なのか。ですます調で軽快だが射程は深い。

『スリリングな女たち』
『スリリングな女たち』
田中弥生
(講談社・
品切れ中だが、電子版で購入可)
『世界の8大文学賞』
『世界の8大文学賞』
都甲幸治ほか
(立東舎・1,728円)
『文学の読み方』
『文学の読み方』
さやわか
(星海社新書・950円)