今回は藤沢さん
藤沢周(ふじさわ・しゅう)
藤沢さん
 作家。「今、何歳?」と聞かれ、「47歳」と答えようとして茫然(ぼうぜん)。失われた10年、いずこに。
不安につけ込む権力

 「政治の時代」といわれる。なぜか。不安だからである。東日本大震災による福島の原発事故。財政赤字。安保法制。北朝鮮のミサイルに、尖閣諸島問題。テロ。少子高齢化…。一体、どうなるニッポン、と冷や汗の一筋二筋、流れるというものだ。
 こんな時、絶対的に信じられるものがあったら、どんなに楽か。「大丈夫。いっしょにやっていきましょう」「はい」と、寿の話ならめでたいが、これがちょっとした共同体であったら…。

 最初は庶民のための幸福を願って生まれた、小さな親和的共同体だったのに、それが激変していく歴史を描いたのが、<1>高橋和巳『邪宗門』(上)(下)(河出文庫・各1,404円)。「ひのもと救霊会」なる素朴な新興宗教が、やがて巨大化し、歴史に翻弄(ほんろう)されていく様を描いた大長編。あのオウム真理教事件のはるか以前、一九六五~六六年に雑誌連載されたものだ。だが、読むたびに、人々の抱える不安が飽和状態にある時の危うさや、国家権力に抗する小さな集まりが団体化し、組織化されていく時、国の権力構造を模倣してしまう怖さを教えてくれるのだ。 不安な時代だからこそ周到に進められているのが、マインド・コントロール。いや、操作されて、不安を煽(あお)られ、そこに政治がつけ込む。


<2>岡田尊司『マインド・コントロール』(文春新書・864円)は、2012年に刊行されてロングセラーになっている単行本の、増補改訂版。もはや耳慣れた言葉に思えるが、マインド・コントロールについて緻密に実態を追跡し、分析した本書を読むと、唖然(あぜん)、愕然(がくぜん)、慄然(りつぜん)。人間とは底知れぬ恐ろしいものだと実感するのだ。「衝撃、スクープ!」などのTV番組が霞(かす)んでしまうほどの事件の数々に、しばし放心の態(てい)。こういう時が危ないか。その原理と応用、そして、いかに自分の頭で考え、自身を保つかのヒントが満載。

 当然、情報の氾濫にやられて、いつのまにか誘導されているというのも、被コントロールの一つ。<3>小口日出彦『情報参謀』(講談社現代新書・821円)は、2009年の下野から四年間で政権を奪還した自民党の情報戦略について書かれた本。なんと、自民党をデータ分析で導いた本人が、情報戦の深層を開示した。政党CM、政敵の悪評利用、「尖閣ビデオ」に対しての即応、SNS(会員制交流サイト)への仕掛け…。「情報の結節点に網を張る」手法で、政権奪還させた記録は、我々が情報なるものといかに付き合っていけば良いかを逆照射する。「政治の時代」である現代の必読書だ。

『悪人礼賛』
邪宗門
高橋和巳
河出文庫・1,404円)
『親鸞』
『マインド・コントロール』
岡田尊司
(文春新書・864円)
『考えるヒント』
『情報参謀』
小口日出彦
(講談社現代新書・821円)