今回は酒井さん
酒井 順子(さかい・じゅんこ) 
酒井さん
エッセイスト。両親ともノー介護で他界、実は介護の苦労を知らない。
卒業を人間らしく

 親の介護問題に取り組む人が多い、我々世代。将来自分がどうするかも含め、施設の問題には興味があるのですが、<1>鹿子(かのこ)裕文『へろへろ-雑誌「ヨレヨレ」と「宅老所よりあい」の人々』(ナナロク社・1,620円)に描かれる「よりあい」は、ちょっと入ってみたくなる施設です。

 類稀(たぐいまれ)な個性と実行力を持った男女二人が福岡につくった特別養護老人ホーム「よりあい」。
施設の雑誌をつくることを任された著者が見た「よりあい」の運営方針は、熱く型破りなものであり、著者もいつの間にか、その渦に巻き込まれていくのです。

 とても面白く読み進める一方で、高齢者の人間らしい生活を目指した時、施設で働く善意の人達には尋常でない負担がかかる、ということも実感させられる本書。お年寄りも、介護にかかわる人達も、人間らしい生活ができるシステムが、さらに必要とされていくことを感じさせられました。

 一時代前、「お年寄りを施設に入れるのは可哀想(かわいそう)」という感覚が強かった頃に介護は誰が担っていたのかがよくわかるのは、<2>有吉佐和子『恍惚(こうこつ)の人』(新潮文庫・724円)。


 1972年に刊行された本書は、高齢者問題をほとんど初めて世に問うた作品として知られますが、「耄碌(もうろく)」(と、当時は言われた)したおじいさんの介護を一手に引き受けたのは、同居する「嫁」でした。
 70年代は厚生白書に「同居は福祉の含み資産」と記される時代であり、介護は家族がして当然のことでした。フルタイムで働く「嫁」の苦闘ぶりが描かれる本書が浮き彫りにする問題は、今も古びてはいません。やがて舅(しゅうと)は他界して物語は終わるものの、“終わりが見えない介護”に身を投じた嫁達が、介護保険制度なき時代にはどれほどいたことでしょうか。

 <3>深沢七郎『楢山節考』(新潮文庫・464円)は、姥捨(うばすて)伝説を元にした著者のデビュー作。七十歳になったら口減らしのため「楢山まいり」に行くのが不文律の貧しい村に住むおりんばあさんは、自分の楢山参りの準備を着々と整え、決行します。
 おりんの潔さは、村では賞賛されるものなのです。が、現代日本でもおりんのような気持ちにさせられているお年寄りがいるならば、それは悲劇。介護する人、される人。

 誰かの自己犠牲の精神に頼ることなく、皆が安心してこの世から卒業できる日が日本に来るのか…?と思わされる、三冊です。

へろへろ-雑誌「ヨレヨレ」と「宅老所よりあい」の人々
『へろへろ-雑誌「ヨレヨレ」と「宅老所よりあい」の人々』
鹿子裕文
(ナナロク社・1,620円)
恍惚の人
『恍惚の人』
有吉佐和子
(新潮文庫・724円)
楢山節考
『楢山節考』
深沢七郎
(新潮文庫・464円)