今回は青木さん
青木理(あおき・おさむ) 
青木さん
ジャーナリスト。お盆は田舎で児童書を読み、畑仕事を手伝ったら日焼けで真っ黒。
児童書が持つ力

 先日、児童書の作家や編集者の前で講演する機会があった。テーマは特定秘密保護法の問題点だったが、昨今の安保関連法案を含め、参加者の多くに危機感が横溢(おういつ)していた。
 考えてみれば当然だ。市民的権利の制限や戦争にかかわる政治の動きは、誰よりも児童書の読者である子どもたちに最大の影響を与える。どんな本を世に送り出すべきか。どんな本を読ませるべきか。悩む知人の児童書編集者に触発され、普段は児童書など読まない私も、お盆休みは過去の名作から最新作まで何冊もむさぼり読んだ。
 その中から、いまこそ子どもたちに読んで欲しい三冊を紹介したい。

 まずは広島への原爆投下を題材にした<1>朽木祥『八月の光』(偕成社・1,080円)。広島や長崎への原爆投下というと、その歴史的意味や被爆者数などが大文字言葉で語られがちだが、被爆(ひばく)二世の作者は徹底的にミクロな視点で物語を紡ぎ出す。やや怪異な、しかしどこにでもいそうな家族の運命が、あの瞬間、根底から暗転する。生き残ったことに悩み、心を殺してしまった者もいる。そんな人間が十数万に上ることを、いやおうなく想像させる。中でも、登場人物の修道士の台詞(せりふ)は、誰もが胸に刻むべきだろう。

「あなたでも私でもよかった。焼かれて死んだのも、鼻をもがれたのも、石に焼きつけられたのも」「だからこそ、あの日を記憶しておかなければと思うのです。あの日を知らない人たちが、私たちの記憶を自分のものとして分かち持てるように」
 二冊目は、もはや名作の域に入るだろう<2>あまんきみこ『ちいちゃんのかげおくり』(画・上野紀子、あかね書房・1,404円)。高学年向きと思われる<1>に比べ、小学校低学年でも十分に読みこなせる絵本だ。
 これも出征兵士の家族の物語を描くだけだが、先の大戦全体の悪と矛盾を十分想起させる。絵本の力はこれほどまでに強いのかと、ノンフィクションの物書きである私は舌を巻いた。
 最後に、やや異色の児童書でおすすめなのが<3>半田滋『僕たちの国の自衛隊に21の質問』(講談社・1,404円)。自衛隊や米軍基地の基本知識や安保法制の問題点をQ&A方式で解説するが、著者は防衛問題に精通した新聞記者だから、データも豊富で記述も平易。私も知識の不足を埋めさせてもらった。

 <1>や<2>を読み、併せて<3>も読めば、今の時代と政治にどう対峙(たいじ)すべきかが見えてくるはずだ。子どもばかりではなく、大人だってそうだろう。残り少なくなった夏休み、子どもと一緒に読書にふけるのもいい。

『八月の光』
『八月の光』
朽木祥
(偕成社・1,080円)
『ちいちゃんのかげおくり』
『ちいちゃんのかげおくり』
あまんきみこ 画・上野紀子
(あかね書房・1,404円)
『僕たちの国の自衛隊に21の質問』
『僕たちの国の自衛隊に21の質問』
半田滋
(講談社・1,404円)