今回は青木さん
青木 理(あおき・おさむ)
青木さん
近く雑誌で開始する大型連載の取材と資料読みに忙殺される日々です。
ポケットに「事件もの」

 突然だが、文庫本が好きだ。旅に出る時、カバンに何冊か放り込んでもかさばらない。休日にごろ寝して読んでも手が疲れない。ポケットに一冊突っ込んで大衆酒場に行き、ほろ酔いになりながら活字を追うのも至福の時間。 ノンフィクションライターである私が本欄を担当するのも今回が最後。だから文庫で読めるお薦めノンフィクションを紹介したい。

 といっても名作が多くて選ぶのは大変なのだが、絶版などで入手困難なものも多く、比較的最近に出版され、本屋に行けば気軽に購入できる作品からセレクトする。


 まずは<1>清水潔『桶川ストーカー殺人事件-遺言』(新潮文庫・680円)。執筆時は週刊誌記者だった著者が、執念の取材でストーカー殺人の真相に肉薄し、犯人にたどりつく。そして浮かび上がってくるのは警察組織の闇-。徹底取材で掴(つか)んだ事実の迫力に圧倒され、おそらくはあっというまに読了してしまうはずだ。


 次は<2>高田昌幸『真実-新聞が警察に跪(ひざまず)いた日』(角川文庫・734円)。地方紙のデスクだった著者は、若い記者たちを率い、警察組織が延々と続けてきた「裏金づくり」という犯罪行為を果敢なキャンペーン報道であぶり出す。

 実に見事な取材・報道であり、「権力の監視役」というメディアの仕事を果たしたのだが、面子(めんつ)を潰(つぶ)された警察側が陰湿な反撃に転じ、著者たちは窮地に立たされてしまう。そして絶望の結末は-。これも手練の記者による作品だから読みやすく、ぐいぐいと引き込まれて最後まで読み切ってしまう。


 もう一冊は、老練のルポライターによる<3>鎌田慧『橋の上の「殺意」-畠山鈴香はどう裁かれたか』(講談社文庫・853円)。衝撃的な事件の発生時、扇情的なメディア報道が描く「犯人像」がいかに表層的なものかが浮かび上がる。 以上三冊は、いずれも「事件もの」に分類されるノンフィクションであり、これらを読めば、警察組織やメディアの問題点を考える格好の材料になるだろう。また、何よりも作品自体の質が高く、面白い。ノンフィクションは何となく堅苦しそうで…と思われている方は、こうした「事件もの」を手始めに読書の幅を広げていくのがいい。


 さて、最後なので文庫化されている拙著も図々(ずうずう)しく紹介させていただけば、現在書店等で入手できるのは死刑問題の深層を追った『絞首刑』(講談社文庫)と、希代の病院経営者の実像に迫った『トラオ-徳田虎雄・不随の病院王』(小学館文庫)。旅先で、寝室で、酒場で。時代や社会と格闘するノンフィクションを気軽に読みつつ、時代と社会を考える契機にしてほしい。

清水潔『桶川ストーカー殺人事件-遺言』
『桶川ストーカー殺人事件-遺言』
清水潔
(新潮文庫・680円)
高田昌幸『真実-新聞が警察に跪(ひざまず)いた日』
『真実-新聞が警察に
 跪(ひざまず)いた日』
高田昌幸
(角川文庫・734円)
鎌田慧『橋の上の「殺意」-畠山鈴香はどう裁かれたか』
『橋の上の「殺意」
 -畠山鈴香はどう裁かれたか』
鎌田慧
(講談社文庫・853円)