今回は藤沢さん
藤沢周(ふじさわ・しゅう)
藤沢さん
作家。「感傷」を昔日の人は「秋の心」と。独酌 の盃、乾くことなし。
ずさんな社会との闘い

 恣意(しい)的な解釈。そして、強行採決。一体、この国はどうなっているのであろう。国民の声などまったく無視する神経が、 「早く質問しろよ」と発する時、その胸中は当然、「どうせ、聞かねえから」だ。腹立ち紛れに言い過ぎにもなるが、 安保、原発、日本型軽減税率、子宮頸(けい)がんワクチン、高齢化社会問題、年金…すべてにそのずさんな神経の根が張って、グロテスクな深謀のからまりに血圧が上がるのだ。


 <1>黒川祥子『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社・1,728円)は、少女たちの未来が犠牲になる、 この社会の病巣をえぐり出した出色のノンフィクション。自治体や学校からワクチン接種の案内通知を受ければ、「可愛(かわい)い娘が子宮頸がんにならないように」と受けさせようとするのが親。 接種後、激痛での不随意運動、記憶障害、視力障害と、のた打ち回るような地獄を生きねばならぬ少女たちがいるのだ。
 被害少女六人と母、医師、薬害を追うジャーナリスト、推進派、ワクチンの現状など多角的な取材で浮上してくるのは、このずさんな社会の有様(ありさま)である。

 ちなみに厚生労働省配布「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」というチラシ…。 一番下に小さな文字でこう記されている。「子宮頸がん予防ワクチンは新しいワクチンのため、子宮頸がんそのものを予防する効果はまだ証明されていません」


 このブレーキなき社会はどこまで落ちていくのか。<2>中沢けい『アンチヘイト・ダイアローグ』(人文書院・1,944円)は、 強行採決と同期するようなヘイトスピーチの現状、つまりは政治と社会の問題を、 作家中島京子、平野啓一郎、星野智幸をはじめ、政治思想の中野晃一、人種差別問題に取り組む泥憲和まで、八人との対話で根底から考えていく刺激的な書。 民主主義とは何か。対話とは何か。今こそ始めなければならない。そして、絶対的他者とさえ、共に考えていく勇気を与えてくれる希望の対談集だ。


 話題の第153回芥川賞受賞作、<3>羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』(文芸春秋・1,296円)も、 「じいちゃんなんか、早う死んだらよか」が口癖の祖父と無職の青年の生活をユーモラスに描きながら、世界の深部に届く考察が鈍色(にびいろ)に光る。 そして、分かりえぬ絶対的他者と共闘して、この理不尽な時代と世界に挑むヒントが込められているのだ。逆説につぐ逆説の巧みさとカタルシスに、拍手!

『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』
『子宮頸がんワクチン、
副反応と闘う少女とその母たち』
黒川祥子
(集英社・1,728円)
『アンチヘイト・ダイアローグ』
『アンチヘイト・ダイアローグ』
中沢けい
(人文書院・1,944円)
『スクラップ・アンド・ビルド』
『スクラップ・アンド・ビルド』
羽田圭介
(文芸春秋・1,296円)