今回は藤沢さん
藤沢周(ふじさわ・しゅう) 
藤沢さん
作家。暑い。だからこそ剣道猛稽古。という夢を見たが、五十肩で素振りもできず。
理系脳を刺激してみる

 子供たちは夏休みか。いいなあ。水中メガネのゴムのにおい、目の醒(さ)めるような星座表の青色、絵日記に描かれるカブトムシとスイカ…。いっぱい遊べ。そして、いっぱい好きなことを見つけてほしいと心から願う。


 この私も若い頃、コピーライター糸井重里氏が夏の文庫特集のために作った名コピー「想像力と数百円」にガツンとやられ、町の本屋さんに駆け込んだものだ。今や、大型書店や新古書店に押されて、町のいい本屋が少なくなってきたが、いやいやどうして頑張っているところがあるのだ。


 <1>本屋図鑑編集部編『本屋会議』(夏葉社・1,836円)は、本を愛し、読者を愛し、そして書物という文化の広がりに情熱をかける、町の名物本屋の数々を取材。今だからこそ、「町には本屋さんが必要」であることの意味を楽しく教えてくれるのだ。一番、本が必要な時期である子供たちのために、いかに良いものを届けるかの工夫から、POS(販売時点情報管理)システムに頼り、売り上げを伸ばすためだけの品ぞろえの不幸と貧困まで、つまりは一冊の本の扱いを通しながら、日本の文化のあり方のツボをえぐってくれる。子供たちが目をキラキラさせて、つま先立ちで書棚に手を伸ばす姿。ワクワクするではないか。本当の文化はここから始まる。

 私が最初に町の本屋さんで買った本は児童版の『ファーブル昆虫記』だ。今読んでも<2>ジャン = アンリ・ファーブル『完訳 ファーブル昆虫記』(全十巻=各巻(上)(下)で刊行中、奥本大三郎訳、集英社・各3,024円)は、虫への愛に裏打ちされた観察力の緻密さと強度に陶然とする。たとえば、地面に穴が空いている。何かの虫の穴だろう。そこで終わるのが凡人の私。だが、ファーブルは、その虫が掘った分の土はどこにいったのだろう、と推理、観察していく。この理系の書物が文系の作家達に愛され続けてきた理由も首肯。観察の妙を教えてくれるのだ。


 ゴリゴリ文系の作家である自分、じつは数学好きだったのである。というか、理系的発想の方になじみがあったのであるが、ひょんなことから作家になってしまった。<3>養老孟司『文系の壁』(PHP新書・842円)は、文系人間の意識外にあるような概念を、理系の知性四人と語り合ったもの。いやはや人間というのは理系にしろ文系にしろ、クレージーかつ天才であるな、と。脳の仕組みから政治経済を考え、他者の認識を実体験する技術で、人間の認知を進化させる、等々。短い夏休みに少しは理系脳を刺激しようか。

『本屋会議』
本屋図鑑編集部編『本屋会議』
(夏葉社・1,836円)
『完訳 ファーブル昆虫記』
『完訳 ファーブル昆虫記』
ジャン = アンリ・ファーブル
(全十巻=各巻(上)(下)で刊行中、奥本大三郎訳、集英社・各3,024円)
『文系の壁』
『文系の壁』
養老孟司
(PHP新書・842円)