今回は酒井さん
酒井 順子(さかい・じゅんこ) 
酒井さん
子供時代、サンリオのおまけ集めに没頭したことがあります。
蒐集することの崇高さ

 さるコレクターの方が、「死ぬその日まで集めるのが、蒐集(しゅうしゅう)家」とおっしゃっていました。そこで手に取ったのは、<1>柳宗悦『蒐集物語』(中公文庫・1,080円)。民藝(みんげい)運動の創始者であり、自らが蒐集した物を集めて日本民藝館をつくった柳宗悦は、蒐集に対して、どのような意識を持っていたのでしょう。 驚いたのは、「集める者は、物の中に『他の自分』を見出しているのである。集まる品はそれぞれに自分の兄弟なのである」という文。蒐集とは、自分の陣地を広げるように物を集めることだと思っていたのですが、実はちりぢりになっている自分をとりまとめるための行為だったとは。 著者は、蒐集という行為は社会の役に立たなくてはならないという使命感も抱いています。ですから自分の欲に走った蒐集や、くだらない物の蒐集にも、手厳しい。「良き蒐集家は第二の造り主である」という一文に、崇高なる蒐集魂を見た気がしました。

 かねて私は、鉄道趣味における「乗りつぶし」という行為も、蒐集の一種ではないかと思っています。鉄道ファン達は、鉄道に関する経験のみならず、知識をも蒐集しています。乗りつぶしにも、知識の吸収にも興味の無い私が、しばしば男性鉄ちゃんから「あなたは本当に鉄道が好きなのか」と問い詰められるのは、彼我では「好き」を表現する手法が違うから。

 <2>宮脇俊三『時刻表2万キロ』(河出文庫・680円)は、世に鉄道趣味を、中でも「乗りつぶし」というジャンルがあることを知らしめた名著です。著者は、出版社に勤務する傍ら、こつこつと旧国鉄全線2万800キロに完乗したのです。

 そこに漂うのは、「大人がこんなことに夢中になって」というそこはかとない含羞と、哀愁。完乗を果たした後の、「乗るべき線がないから、もう書くこともない」という文章は寂しいけれど、その後には希望も見えて、趣味を持つ人の幸いが感じられます。
蒐集に対する感覚の男女差が著しいことは知られていますが、四国八十八カ所巡礼もまた一種の蒐集行為と考えるならば、<3>高群逸枝『娘巡礼記』(堀場清子校注、岩波文庫=近く重版予定)は、興味深い書。1918(大正7)年、24歳で全てを捨てて巡礼へと旅立った逸枝は、後に日本における女性学の先覚者に。巡礼という蒐集は、女である自己を見つめる契機ともなったのではないでしょうか。

『蒐集物語』
『蒐集物語』
柳宗悦
(中公文庫・1,080円)
『時刻表2万キロ』
『時刻表2万キロ』
宮脇俊三
(河出文庫・680円)
『娘巡礼記』
『娘巡礼記』
高群逸枝
(堀場清子校注、岩波文庫=近く重版予定)