今回は中江さん
中江有里(なかえ・ゆり)  
中江さん
女優、作家。月刊「文蔵」(PHP文芸文庫)で連載「晴読雨読」を始めました。
身近に感じる神さま

 三月は別れの季節です。クラス替えに進学、卒業や引っ越し、年度末という区切りは別れが集中して、少しセンチメンタルな気持ち。
 だけど良いこともあります。わたしにとって区切りは内省のタイミング。これまでのことを振り返り、自分自身の心や言動を見つめ直すのにちょうど良い。そして新年度がよい一年になるように、と祈ります。祈る対象は月や星だったり、近所の神社だったり、特に決まっていませんが、祈る回数が多いのは神さま。八百万(やおよろず)の神がいる日本にはどこにでも(トイレにも)神さまがいます。きっと誰にも神さま、神さま的な存在があるのではないでしょうか。


 <1>神藏美子『たまきはる』(リトル・モア、三二四〇円)の帯には「神さまがいるとしたら、ここ」と記しています。短くも絶妙なフレーズ。神さまはどこにいるのだろう、と本を開きました。ごく私的な写真を前に「こんなにプライベートな写真、見て良いのかな」とドギマギ。綴(つづ)られる文章は静かなる叫びのよう。
「『宗教』という言葉は、わたしたちから神さまを遠ざけて、わからなくして、感じられなくしてしまったのか」。ズキンと胸に来る言葉でした。

写真をじっと見ているうちに、ここに写る人々の視線の向こうに、神さまがいるような気がしました。


 作家・又吉栄喜さんの小説の舞台で、ご自身が生まれ育った「原風景」を綴った<2>『時空超えた沖縄』(燦葉出版社・一九四四円)。戦死者の白骨や遺品、米軍のボンベなど戦争の跡が残る場所で遊んだ記憶と大人から聞いた幽霊話がくっついて、新たな幽霊話を創作したという又吉少年の様子がまぶたに浮かびます。沖縄の小さな集落で生まれ、亡くなった人々の気配がそこここにあり、すぐ近くに神がいるという概念が息づく沖縄固有の精神風土を感じました。


 最後に<3>宮下奈都(なつ)『神さまたちの遊ぶ庭』(光文社・一六二〇円)。北海道中部に位置するトムラウシ山麓へ家族で一年間移住したその様子を綴ったエッセイです。タイトルはこの地域の美しい風景を表現したアイヌ語から取っています。最寄りのスーパーまで三十七キロでちょっとした買い物も大変だけど、小中学校併せて十五人の学校では、全村民参加の大運動会が開催され、子供たち一人一人の誕生日パーティーも催されます。村が一つの家族のように繋(つな)がっている。村のどこかで神さまが見守ってくれているようです。

『たまきはる』
『たまきはる』
神藏美子
(リトル・モア・3,240円)
『時空超えた沖縄』
『時空超えた沖縄』
又吉栄喜
(燦葉出版社・1,944円)
『神さまたちの遊ぶ庭』
『神さまたちの遊ぶ庭』
宮下奈都(なつ)
(光文社・1,620円)